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予防医療・ケア治療法診療事例

認知症と「お薬の見直し」――当院が大切にしていること

「もの忘れが増えた」「最近ボーッとすることが多い」――加齢だけが原因とは限りません。一部のお薬が認知機能に影響している場合があります。
当院では、認知症を悪化させる可能性がある薬剤を見逃さないこと、そして必要最小限で安全に使うことを徹底しています。

※お薬は自己判断で中止せず、必ず主治医にご相談ください。

1) よく話題になる「胃薬(H2ブロッカー)」はどうなの?

  • 健常高齢者では、近年の質の高い研究(ASPREE試験解析)で、H2ブロッカーやPPIを使っても認知症発症や持続的な認知低下とは関連しないことが示されています。過度に心配しすぎる必要はありません。
  • 一方で、軽度認知障害(MCI)や認知症の方では、H2ブロッカーがPPIよりも認知機能の悪化と関連した観察研究があります。つまり、認知機能が落ちやすい方にはH2ブロッカーよりPPIが無難なケースがあります。
  • さらに、せん妄(急な混乱・幻覚・昼夜逆転など)を起こしやすい高齢者では、H2ブロッカーを避けるよう勧める専門家基準(Beers Criteria 2023)があります。

まとめ

「H2ブロッカー=すべて危険」ではありません。“誰に、どの状況で”使うかが重要です。認知症やせん妄のリスクが高い場合は、薬の種類や用量、使い方の見直しで安全性を高められます。

2) そのほか「認知機能に影響しやすい」代表的なお薬

以下は高齢者では注意が必要とされる薬の一例です(Beers Criteria 2023 などを参考)。

  • 強い抗コリン作用のある薬(一部のアレルギー薬・かぜ薬、三環系抗うつ薬、過活動膀胱薬など)
  • ベンゾジアゼピン系・Z薬(睡眠薬・不安薬)
  • 抗精神病薬(行動・心理症状に対しては非薬物療法が優先)
  • オピオイド(ほかの鎮静薬と併用でリスク増)
  • H2ブロッカー(特にせん妄リスクが高い方腎機能低下がある方では注意)
    これらは併用が重なるほど(抗コリン負荷・過鎮静)で転倒やせん妄、認知低下のリスクが上がります。

3) 当院の取り組み――「減らす医療」で認知機能を守る

当院では、以下の流れで安全な内服調整を行い、認知症の悪化要因を最小化します。

  1. くすりの棚卸し(総点検)
    すべての処方薬・市販薬・サプリを確認し、重複・相互作用・過鎮静・抗コリン負荷を評価します。
  2. リスク層別化
    認知症/MCI、せん妄既往腎機能低下、日中の眠気・ふらつきの有無をチェック。H2ブロッカーは腎排泄で中枢副作用が出やすくなるため、用量調整や薬剤切替を検討します。
  3. やめ方・減らし方の設計
    重要薬は残しつつ、優先順位をつけて少しずつ減量。症状再燃を確認しながら頓用化最小用量化を進めます。
  4. 代替策の提案
    例)H2ブロッカー→PPIへ切替、生活習慣の見直し(就寝前の食事・飲酒・姿勢)、薬以外の不眠対策など。周術期や急性期はPPIがせん妄リスクを下げた報告もあります。
  5. ご家族と連携
    服薬カレンダー、急な混乱(せん妄)サインの共有、夜間見守りの工夫などを一緒に整えます。
  6. 定期フォロー
    認知機能・昼夜リズム・転倒の有無を定期的に再評価し、再増量・再導入の妥当性も含めて“最小限の最適”を維持します。

4) こんなサインはご相談ください

  • ここ数日で急にぼんやり・見当識がずれる/幻視が出る(→せん妄の可能性)
  • 日中の強い眠気・ふらつき、夜間の転倒
  • 新しく始めた/量を増やした薬のあとに様子が変わった

気になることがあれば、受診時にお薬そのもの(袋ごと)やお薬手帳をご用意ください。

5) 最後に――「薬を減らす」ことも医療です

認知症のケアは、薬を足すことだけではありません。悪化要因になりうる薬を減らす・やめることも、大切な“予防”と“治療”の柱です。
当院は、エビデンスに基づく安全な内服設計
で、患者さんとご家族の生活の質(QOL)を守ります。まずはお気軽にご相談ください。

参考(専門職向け・一般向けの記事)

  • ASPREE解析(Gastroenterology 2023):高齢者でPPI/H2RAと認知症・CIND・認知低下に関連なし。PubMed+2spg.pt+2
  • NACCコホート(Wu 2022):MCI/認知症ではH2RA>PPIで認知機能悪化の関連。PMC+1
  • AGS Beers Criteria 2023:せん妄ハイリスクでH2ブロッカー回避を強く推奨。thecarepartnerproject.org+1
  • 日本老年医学会ガイドライン2015厚労省資料:H2ブロッカーは腎機能低下で有害事象増、せん妄薬剤として注意。jpn-geriat-soc.or.jp+2jpn-geriat-soc.or.jp+2
  • 術後せん妄の知見:ファモチジン→オメプラゾール切替でせん妄減少PMC+1
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