尊厳ある最期のために
先日、ある患者様の訪問診療の依頼がありました。その方は脳卒中の後遺症で病院に入院されていた方でしたが、最後は鼻の管を外して退院し、自然な形で自宅で奥様と過ごしたいとのご希望でした。病院での退院カンファレンスのときには、両手にミトンをはめ、鼻の管を入れたままで意思疎通もやや難しい状態でしたが、ようやく家に帰れると聞くと嬉しそうに笑ってくださいました。
退院後1週間くらいでしょうか、ミトンも外して自然な状態で少量ながら自分で水分を取り、好きなお風呂にも入り、家族との時間を過ごされ、その後眠るように旅立たれました。数カ月ぶりの入浴でご本人様もとても喜んでくださっていたとのことで、ご親族の方からもおかげさまで良い最期を迎えられたと感謝のお言葉をいただきました。ご親族はまた、鼻の管は外せないと病院で言われて絶望していたところ、「鼻の管を入れてまでの延命は、本人や家族さんが希望しなければ、する必要はないと思います」というわたしの言葉にとても救われた、とも仰ってました。当院では医療従事者のエゴの押し付けではなく、患者さんのご希望に沿った自分らしい生活と尊厳のある最期をサポートするという方針で対応しておりますので、わたしとしてはある意味当然のことを申し上げただけなのですが、思いがけず感謝のお言葉をいただき、なんだか嬉しくなりました。
わたしが在宅医療を始めるきっかけは療養病院で意識がない状態で両手を縛られ、鼻に管を入れて延命されている方々を見たことでした。「これはいったい誰のための医療なのか、ここに人間としての尊厳は存在するのか」という疑問が頭から離れず、医師としてそうした医療を提供することへの葛藤に苦しみ、人の最期としてどのような形が理想的なのだろうかと考えているときに出会ったのが在宅医療でした。住みなれたご自宅で家族に囲まれ、今までの感謝を伝え合う患者様の姿をみて、こうした最期を迎えられるお手伝いをしたいとの思いが強くなり、たいようさんさん在宅クリニックを設立するに至りました。
急な体調不良や持病の悪化で入院され、寝たきりとなって療養病院で管を入れ、他に選択肢もないからと、そのまま希望しない最期を迎えることを余儀なくされる方々もたくさんいらっしゃると思います。そうした状況の中、当院では帰宅を希望される方に、自分らしい最期を迎えられる「自宅看取り」という選択肢を提供したいと思い日々診療をしています。もちろん、そのような状態に至らないための日頃の体調や持病の管理もさせていただいております。
最後までご自宅で過ごしたい方、通院困難でお困りの方は気軽に当院までご相談ください。